東京地方裁判所 昭和47年(ワ)10719号 判決 1979年7月03日
原告 野田玉枝
<ほか五名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 福田喜東
被告 京浜急行電鉄株式会社
右代表者代表取締役 中川幸一
<ほか二名>
右被告ら訴訟代理人弁護士 花岡隆治
同 向山義人
同 猿山達郎
同 野村弘
同 中川隆博
同 山田忠男
同 岡田泰亮
右訴訟復代理人弁護士 向井孝次
主文
一 被告京浜急行電鉄株式会社、同宇井美基雄は各自、原告野田玉枝に対し金五万九二三九円、原告野田孝徳、同佐々木博子、同野田清、同野田道子、同野田進に対し各金一万一六九五円及び右各金員に対する昭和四八年一月一六日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告京浜急行電鉄株式会社、同宇井美基雄に対するその余の請求及び被告藤浪明に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は原告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告野田玉枝に対し金五〇八万三五六三円、同野田孝徳、同佐々木博子、同野田清、同野田道子、同野田進に対し各金一五五万四二二五円及び右金員に対する昭和四八年一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1 事故の発生
訴外亡野田義男(以下亡義男という。)は、昭和四七年八月二五日午後六時三〇分ころ、京浜急行黄金町駅下りホームにおいて、停車中の京浜川崎駅発逗子海岸駅行急行電車一八六二列車(以下本件電車という。)に乗車しようとした際、乗車しないうちに扉が閉まって、左手を扉にはさまれ、そのまま右電車が発車したため転倒し、右ホームと電車との間を約二〇メートルにわたって引きずられ、そのため左鎖骨骨折、胸部打撲、両足汗疱白癬の傷害を受けた。
そのため亡義男は、同日、訴外宗教法人甲野外科病院(以下甲野病院という。)に入院し、右入院中の同年九月一五日に死亡するに至ったものであるが、亡義男は本件事故による受傷がなければ死亡するに至らなかったはずで、亡義男の死亡と右受傷との間には相当因果関係があるというべきである。
2 責任
(一) 被告藤浪明(以下被告藤浪という。)は本件電車の運転手、被告宇井美基雄(以下被告宇井という。)は同車掌で、同被告両名は、ホームに停車中の電車を発車させる際には、ともに乗客の乗降の完了を確認するべき注意義務があるのにこれを怠り、被告宇井において、本件電車の乗客の乗降が完了したことを確認しないまま被告藤浪に出発合図を送り、被告藤浪も右出発合図を軽信して漫然本件電車を発車させたもので、本件事故は被告両名の右過失によって発生したものであるから、右被告両名は共同不法行為者とし民法七一九条に基づき本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。
(二) 被告京浜急行電鉄株式会社(以下被告会社という。)は、被告藤浪、同宇井の使用者であるところ、本件事故は、右被告両名が被告会社の業務に従事中に、前記過失により惹起したものであるから、被告会社は民法七一五条に基づき本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。
3 損害
(一) 逸失利益
亡義男は本件事故当時五五歳で、訴外品川塗装株式会社に勤務して、毎月金一〇万五二二五円の給与及び毎年少くとも右給与の五・〇三月分のボーナスを得ていたが、生活費として毎月金九万円を支出していたのでこれを控除すると、年間合計金七一万一九八一円の純益を得ていたことになる。そして、自動車損害賠償保障事業損害査定基準による就労可能年数表(昭和四五年一〇月一日改訂)によると、五五歳の成年男子の就労可能年数は九・三年であるから、亡義男は、もし本件事故により死亡しなければなお右の期間稼働し、その間毎年右同額の純益を得ることができたはずで、右金額から年五分の割合による中間利息をホフマン方式により控除して亡義男の死亡による逸失利益を求めると、その額は金五六五万六六八九円となる。
(二) 相続
原告野田玉枝(以下原告玉枝という。)は亡義男の妻、原告野田孝徳(以下原告孝徳という。)、同佐々木博子(以下原告博子という。)、同野田清(以下原告清という。)、同野田進(以下原告進という。)は亡義男の子であり、法定相続分に応じ右(一)の損害賠償債権のうち、原告玉枝は三分の一である金一八八万五五六三円、原告孝徳、同博子、同清、同道子、同進は各一五分の二である各金七五万二二五円を、それぞれ相続により取得した。
(三) 葬儀費用
原告玉枝は亡義男の葬儀を執り行ない、その費用として、会食費金二五万円、葬祭料金三五万円、手伝い謝金九万八〇〇〇円、墓石代金五〇万円、合計金一一九万八〇〇〇円を支出した。
(四) 慰藉料
原告らは、夫であり父である亡義男を本件事故で失い甚大な精神的打撃を受けたが、これを慰藉するには原告玉枝について金一〇〇万円、原告孝徳、同博子、同清、同道子、同進については各金八〇万円が相当である。
(五) 弁護士費用
原告らは本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任し、原告玉枝はその報酬として右訴訟代理人に対し、本件訴訟提起と同時に金五〇万円を支払い、勝訴判決を得た時は残金五〇万円を支払う旨約した。
よって、原告らは被告ら各自に対し、本件事故による損害の賠償として、原告玉枝において金五〇八万三五六三円、原告孝徳、同博子、同清、同道子、同進において各金一五五万四二二五円及びこれらに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四八年一月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実中、亡義男が原告ら主張の日時ころ、京浜急行黄金町駅下りホームにおいて、本件電車に乗車しようとした際、左手を扉にはさまれて転倒し、ホームと右電車との間を引きずられたことにより負傷したこと(ただし、右引きずられた距離は約五メートルである。)、亡義男が原告ら主張の日に甲野病院に入院し、右入院中の昭和四七年九月一五日に死亡したことは認めるが、亡義男の死亡と本件事故による受傷との間に相当因果関係があることは争う。
本件事故による亡義男の傷害は全治一か月程度のものであったところ、右甲野病院において亡義男の治療に当った訴外甲野太郎医師は、亡義男の受傷状況から見て何らステロイドホルモンを投与する必要がなかったのにこれを投与し、仮に右必要が認められたとしても、ステロイドホルモンを患者に投与する際には、右ステロイドホルモンは副作用が顕著であり、殊にその投与により胃潰瘍の発病することが広く認められているのであるから、当該患者の体質、投与後の経過等に応じ適切な量を、適切な間隔をおいて投与するべきであったのに、通常の投与量の数倍の量を漫然と投与した結果、亡義男をして胃潰瘍による失血死に至らせたもので、亡義男の死亡は、専ら同医師の治療上の過失に基づくものであるから、本件事故による受傷と亡義男の死亡との間には相当因果関係はないというべきである。
2 同2(一)の事実中、被告藤浪が本件電車の運転手であり、被告宇井がその車掌であったことは認めるが、右被告両名について、原告ら主張の過失があったとの事実は否認する。
同(二)の事実中、被告会社が右被告両名の使用者であること、本件事故は、右被告両名が被告会社の業務に従事中に発生したものであることは認める。
3 同3(一)の事実中、亡義男が本件事故当時原告主張の会社に勤務していたことは認めるが、その余の事実は知らない。
同(二)の事実中、原告玉枝が亡義男の妻であり、その余の原告らが亡義男の子であることは認めるが、その余の事実は知らない。
同(三)ないし(五)の事実は知らない。
第三証拠《省略》
理由
一 本件事故の発生
亡義男が昭和四七年八月二五日午後六時三〇分ころ、京浜急行黄金町駅下りホームにおいて本件電車に乗車しようとした際、左手を本件電車の扉にはさまれて転倒し、ホームと本件電車との間を引きずられ、そのため負傷したことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、亡義男の右の事故による受傷は左鎖骨骨折、胸部打撲、腰部打撲、左側頭部打撲であったことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
二 責任
そこで、亡義男の死亡と本件事故との間に因果関係があるか否かの点は一応措くとして、被告らの責任の有無について判断する。
被告藤浪、同宇井が被告会社の被用人で、被告藤浪が被告会社の業務として本件電車を運転し、同宇井が車掌として同電車に乗務していたことは、いずれも当事者間に争いがなく、《証拠省略》を総合すると、京浜急行黄金町駅のホームは東西に延びた全長一一四・七メートルの高架島型ホームで、北側が上り線用、南側が下り線用ホームとなっており、下り線用ホームは、下り電車進行方向である西方へ向かい右に緩くカーブしていること、本件電車は一一六七号車を先頭車両として順次一一七二号車まで六両編成で、その全長は一〇八メートルであったこと、本件電車が前記日時ころ、本件黄金駅ホームに到着したところ、丁度同時刻ころは夕方の混雑時で、車内には定員の約一・五倍の乗客が乗車していたほか、ホーム上にも多数の乗客が待っていたこと、被告宇井としては、到着後いつもの手順に従い最後部の車掌室にある全車両の扉を開閉するスイッチを押し上げて車両の扉を開け、次に車掌室から駅ホームに出て乗客の乗降を看視し、一応乗降が終ったものと判断して手笛を吹いたうえ、扉を閉めるべくスイッチを押し下げたところ、全車両の車側表示燈が消えたので、運転手に対する出発ブザーを押して合図を送ったこと、被告藤浪としては、停車後最先頭の運転室で出発合図を待っていたところ、まもなく運転手室にある全車側表示燈の消燈を知らせるパイロットランプが点燈し、次いで右出発ブザーが鳴ったので、電車を発進させたこと、ところが電車が約二〇メートル進行したときに、駅ホーム前方で乗客が騒いでいるのに被告宇井が気づき、直ちに車掌弁を引いて急制動をかけ、続いて被告藤浪も急制動の措置をとって電車が停止したが、既に亡義男がホーム先端から一五、六メートル先に倒れていたこと、亡義男は、本件電車の前方から二両目の車両に乗車していたが、同電車が黄金町駅に到着した際、他の乗降客のため一旦ホーム上に降り、再び乗車しようとしたが、乗車しないうちに扉が閉まって左手がはさまれ、そのまま電車が発進進行したため電車に引きずられ本件事故に遭ったものであることが、それぞれ認められる。《証拠省略》中に、亡義男は本件ホームで車両を乗り換えようとして事故に遭ったものである旨の記載並びに供述部分があるが、それらは《証拠省略》と対比して措信することができず、他に前記認定を覆えす証拠はない。
右認定事実によれば、本件事故は出発合図をするにあたり乗降客の乗降が完全に終了し、閉められた扉にはさまれた乗降客がいないことなど安全を十分確認したうえ出発合図をすべきであるのにかかわらず、これを怠った被告宇井の過失によって惹起されたものと認めざるを得ない。
しかしながら、《証拠省略》によれば、本件のような電車を運行する場合、地方鉄道運転規則及び被告会社における乗務員の作業基準では、運転手は自ら乗降客の乗降完了を確認する必要はなく、前記パイロットランプの点燈を確認するとともに出発ブザーに従って電車を発進させれば足りることと定められていることが認められ、当裁判所としてもその運行形態等からして右で十分と考えられるところ、前記認定事実によると、被告藤浪は発進に当って右の義務を尽していることが明らかであるから、本件事故に関し同被告に過失があったものとすることはできない。
そうだとするならば、被告会社は民法七一五条に基き、被告宇井は同法七〇九条に基き、それぞれ本件事故によって生じた損害を賠償すべき義務があるが、被告藤浪についてはその義務がないものというべきである。
三 本件事故による受傷と死亡との因果関係
《証拠省略》を総合すると、亡義男は本件事故後直ちに救急車によって甲野病院に入院し(同日亡義男が甲野病院に入院したことは当事者間に争いがない。)、同病院の訴外乙川医師がその診療に当ったが、同医師としては亡義男が前記傷害、殊に左側頭部打撲傷を受けているほか、脳圧が若干程度上昇し、軽度の言語障害もあったので、これらの点から亡義男が外傷性ショック及び脳障害を起こしている疑いがあると考え、右症状に対する対症療法としてステロイドホルモンの処方を決め、同合成剤であるオルガドロンの三・八ミリグラム入りアンプル三本(合計一一・四ミリグラム)を、意識障害用剤、止血剤等とともに点滴静注して投与したこと、その後亡義男の診療には同医師と同病院の院長である訴外甲野太郎医師とがともに当ったが同人らはその後も、亡義男に対し、同月二七日から九月一日まで連日前同量のオルガドロンを前同様の方法で投与し、入院以来の右七日間のオルガドロン投与量は合計七九・八ミリグラムに達したこと、この間八月二八日には左鎖骨骨折の観血手術が施行されたところ、術後の経過は良好で九月一二日には患部全部の抜糸を了し、その時点で同医師らは二日後の同月一四日には亡義男を退院させることができる旨の見通しを立てたこと、ところが、右一二日中に亡義男の状態は急変し、血圧が降下(最高一〇〇、最低七〇)するとともに午後九時ころ血液の混じった内容物の嘔吐があり、午後一〇時ころ吐血があったこと、右吐血はオルガドロンの副作用によって発症した胃潰瘍によるものであったが、同医師らとしては右の事実に気が付かず、翌一三日、止血剤、血液凝固剤とともに再びオルガドロンの投与を点滴静注により開始し、右投与量は同日及び一四日は三・八ミリグラム入りアンプル三本ずつ各二回、一五日は同三本一回、以上三日間合計五七ミリグラムに及んだこと、亡義男は一四日午後八時ころには意識混濁、呼吸困難、脈膊微弱等の重篤症状を呈し、一五日午前一一時二二分に死亡するに至った(亡義男が一五日に死亡した事実は当事者間に争いがない。)が、亡義男の右死因は胃潰瘍による失血死で、本件受傷前同人に胃潰瘍等の疾病はなく、右胃潰瘍はオルガドロンの副作用によって発症したものであること、ところでステロイドホルモンは、一般に外傷性ショックの緩和に効果があり、また頭部外傷による脳浮腫の治療効果もあるところから外科治療上広く使用されているが、同薬剤は同時に胃潰瘍を急激に発症させる等の副作用があることも医学上一般に知られており、したがってステロイドホルモンを投与した後に吐血があれば、通常、その副作用としての胃潰瘍が発症したものと考え、ステロイドホルモンの投与をしないことはもちろん直ちに輸血をするとか潰瘍部の手術を行うとかの措置を講ずるべきで、それによって患者を救命することのできる例が多く、本件の場合も、一二日の前記吐血後直ちにこれら措置をとっていれば亡義男は死亡するに至らなかったものとみられること、なお本件事故による前記傷害はそれ自体としては到底死亡の危険のある程度のものではなく、前記のように右傷害自体は九月一二日の時点で同月一四日に退院できる見通しが立つほど軽快していたこと、以上の各事実が認められ右認定を左右する証拠はない。
そして右認定事実によれば、右医師らが亡義男の入院当日である昭和四七年八月二五日及び同月二七日ないし九月一日の七日間に合計七九・八ミリグラムのオルガドロンを投与したことが適切な治療であったか否かはともかくとして、少くとも誤った治療であったとまで断ずることはできないが、遅くとも九月一二日に吐血があった時点で同医師らとしては直ちに輸血をするとか潰瘍部の手術をするとかの措置を講ずるべき診療上の注意義務があったのに、これら措置を講ずることなく放置し、あまつさえ行ってはならないオルガドロンの投与を再開し、しかも増量して投与したもので、右投与が亡義男の胃潰瘍を悪化させ、遂に同人をして死に至らしめたものと認めざるを得ない。
そうだとするならば、亡義男の死亡は右医師らの診療上の重過失に因るもので、本件事故による受傷と死亡との間に事実的因果関係は存するもののその間に法的因果関係はないものというべきである。
したがって、被告会社及び被告宇井は、亡義男の死亡による損害については賠償義務はなく、受傷による損害の範囲にとどまるものといわざるを得ない。
四 損害
1 逸失利益
《証拠省略》を総合すると、亡義男は本件事故当時品川塗装株式会社に勤務し(右事実は当事者間に争いがない。)、毎月給与を得ていたが、本件事故当時の一日当りの平均賃金(昭和四七年五月から七月までの給与の合計金三八万四三五五円を、当該期間の総日数である九二日で除した金額)は金四一七七円であったこと、亡義男は本件事故による受傷のため少くとも事故の翌日である昭和四七年八月二六日から同人が死亡した日である同年九月一五日まで二一日間右会社を欠勤せざるを得ず右期間の給与を得られなかったことが認められ、右に反する証拠はない。なお亡義男は、訴外乙川らの医療上の重過失によって死亡することがなかったならば、本件受傷のためなお引き続き勤務先を欠勤し、また場合によっては後遺症が残存し、逸失利益損害が生じたことも考えられないではないが、右事実を認定するに足る証拠がないから、これを損害算定の基礎とすることはできず、結局右死亡日までの範囲内で認めざるを得ない。
そうだとするならば、亡義男の本件事故による逸失利益損害は金八万七七一七円というべきである。
2 相続
原告玉枝は亡義男の妻、原告孝徳、同博子、同清、同道子、同進は亡義男の子であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、右原告ら以外に亡義男の相続人がいないことが認められるから、右1の損害賠償債権を、原告玉枝はその三分の一である金二万九二三九円、他の原告らはそれぞれ一五分の二である金一万一六九五円ずつ相続により取得したものというべきである。
3 原告玉枝は亡義男の死亡による葬儀費用の賠償を求めるが、右請求の理由がないことは前説示のとおりである。
4 原告らは、亡義男の死亡による原告ら固有の慰藉料の賠償を求めているが、本件事故と亡義男との死亡との間に法的因果関係がないことは前説示のとおりであり、また、亡義男の本件事故による受傷の程度は前記のとおりである以上、その生命が侵害された場合に比肩しうべき受傷とは認められず、近親者固有の慰藉料請求権は発生しないものというべきであるから、右請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
5 弁護士費用
原告らが本件訴訟の提起追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは訴訟上明らかであり、原告玉枝がその報酬を支払い、かつ支払の約束をしたことは容易に推認できるところであるが、本件訴訟の難易等諸般の事情を考慮するならば、本件において弁護士費用賠償を求めるのは金三万円が相当である。
五 以上の次第で、被告会社及び被告宇井各自に対し、原告玉枝は金五万九二三九円、原告孝徳、同博子、同清、同道子、同進は各金一万一六九五円の損害金及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和四八年一月一六日から各支払ずみまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で原告らの本件請求は理由があるので、これを正当として認容し、右被告らに対するその余の請求及び被告藤浪に対する請求は理由がないので失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九三条一項本文、九二条但書、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小川昭二郎 裁判官 福岡右武 金子順一)